モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
¥1,980 税込
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著者:内田洋子
発行:方丈社
仕様:四六並製仮フランス装/オールカラー/350ページ
○方丈社 紹介文
イタリア、トスカーナの山深い村から、
本を担いで旅に出た人たちがいた。
ダンテ、活版印刷、禁断の書、ヘミングウェイ。
本と本屋の原点がそこにある。
(『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』本文より)
はじめに
内田洋子
いつか読もう、と積んだまま忘れられている本はないだろうか。
ある日ふと読み始めてみると、面白くてページを繰る手が止まらない。玉手箱の中から、次々と宝物が飛び出してくるような。
モンテレッジォ村は、そういう本のようだ。本棚の端で、手に取られるのを静かに待っている。
薦めてくれたのは、ヴェネツィアの古書店だった。とても居心地の良い店である。寡黙で穏やかな店主はまだ若いのに、客たちの小難しい注文を疎(うと)まずに聞き、頼まれた本は必ず見つけ出してくる。
〈ただ者ではないな〉
店主と客たちの本を介したやりとりに魅かれ、買わなくても寄る。たいした棚揃えに感嘆し、修業先を尋ねると、
「代々、本の行商人でしたので」
根を辿(たど)ると、トスカーナ州のモンテレッジォという山村に原点があるという。
「何世紀にも亘(わた)り、その村の人たちは本の行商で生計を立ててきたのです。今でも毎夏、
村では本祭りが開かれていますよ」
驚いた。
籠(かご)いっぱいの本を担(かつ)いで、イタリアじゅうを旅した行商人たちがいただなんて。そのおかげで各地に書店が生まれ、〈読むということ〉が広まったのだと知った。
なぜ山の住人が食材や日用品ではなく、本を売り歩くようになったのだろう。
矢も盾もたまらず、村に向かった。
実に遠かった。鉄道は果て、その先の石橋を渡り、山に登り、人に会い、古びたアルバムを捲(めく)って、山間の食堂で食べ、藪(やぶ)を歩き、教会の鐘の音に震え、川辺の宿に泊まった。
見知らぬイタリアが、そこここに埋もれていた。
人知れぬ山奥に、本を愛し、本を届けることに命を懸けた人たちがいた。
小さな村の本屋の足取りを追うことは、人々の好奇心の行方を見ることだった。これまで書き残されることのなかった、普通の人々の小さな歴史の積み重なりである。
わずかに生存している子孫たちを追いかけて、消えゆく話を聞き歩いた。
何かに憑(つ)かれたように、一生懸命に書いた。
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